バレンは高原ではない!



アイルランド西部・クレア州。アイリッシュ・トラッドの里として知られ、アイルランドの伝統を今に受け継ぐ、風光明媚な地方です。その北部に、ザ・バレン(The Burren)と呼ばれる地域があります。石灰岩が露出して、木も草も生えないような荒涼としたところです。夏は観光地として人も沢山訪れますが、冬は本当に寂しい、この世の終わりのような所です。

その、ザ・バレンのことを、どういうわけか、日本語で「バレン高原」と書いている書物やホームページなどが、最近急増しているように思います。しかし、バレンは高原とは言えません。部分的に高原状の所はありますが、バレンという名称は、面積360平方キロに及ぶ地域の総称であって、その周囲のほぼ半分が海岸線です。バレンの最高地点は、標高345メートルの、Slieve Elvaという山ですが、地域の大半は、標高100メートル以下です。全体になだらかな起伏はあるものの、平地もあり、台地状の所もありで、確かにごく一部は高原と言ってもおかしくないような雰囲気を持っていますが、それはあくまでごく一部です。たまたまそこを通って旅行した人が、感覚的なイメージから、高原と呼んだのが広まったのかもしれません。バレンの一部地域のイメージとしては、そうかもしれませんが、少なくとも英語のバレン(The Burren)というのは、地域の総称で、きちんと境界線も決められています。クレア州北部、村でいうと、コロフィンの少し北から、西はドゥーリン、東はゴールウェイ州との境界付近まで(ゴールウェイ州のごく一部にまたがっている)です。有名なモハーの断崖(Cliffs of Moher)はバレンには含まれません。バレンに含まれる主な村は、内陸のキルフェノーラ(周囲は極めて平坦)、リスドーンヴァルナ(多少の起伏あり)や、ゴールウェイ湾に面したバリーヴォーハンなどです。

地理学上、日本語の「高原」という言葉には、確固たる定義はないそうです。だから感覚的に使うこと自体は良いのですが、かといって、海岸線を含む地域の総称に高原をつけるのは、あまりにおかしい話です。日本語での表現だけが勝手な造語により一人歩きしてしまい、いつか定着してしまうことは、絶対に好ましくないと考えます。

このような誤った表記を少しでも減らすために、そしてより正しく現地を理解するために、現地在住日本人の一人として、放任すべきではないと考え、このホームページを作りました。多くの方は、あまり深く考えもせずに、前例に習って使っているだけだと思うので、教えてあげれば気付いて直してくれるであろうと思います。どうか、この誤表記を減らしていくため、皆様のご理解とご協力をいただければと思います。


ちなみに只今(2000年7月27日)、Yahoo Japan で、「バレン高原」を入れて検索したところ、36件が出ました。これを半減させるのを当面の目標とします!





岩ばかりで木も生えないその特異な景観で知ら
れるバレンは、海に囲まれた地域でもある。 



2000年7月25日から



文責:高木邦夫 (在アイルランド)
E-mail: takagi@eircom.net
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